企業的牧畜の特徴とは?分布も生産物も一撃で覚えられる考え方を紹介!
どうも、ひろです。
今回は、企業的牧畜について解説していきます。
企業的牧畜とはどういう農業なのでしょうか。
順を追って説明していきます。
企業的牧畜の特徴
そもそも企業的とは?
教科書などでは、企業的農業について以下のように解説されることが多いと思います。
商業的農業をさらにおし進めた企業的・合理的農業経営を行う企業的農業が発展した。
(帝国書院「新詳地理B」p. 95)
企業的・合理的農業経営を行うとはどんな状況なのか、いまいちわからないという人もいると思います。
まずは、ここでいう企業的・合理的な農業とはどういうものかをしっかり理解していきましょう。
企業的=企業が行っているのだろうとイメージする人も多いと思います。
もちろん、イメージ通り企業が牧畜をやっている地域もあるのですが、実は企業じゃなくて家族経営で牧畜をしている農家もあります。
つまり、必ずしも企業が行っているわけではないのです。
ちょっと混乱してしまいそうですが、どういう意図で「企業的」という単語を使っているでしょうか。
高校地理で学ぶ農業区分のもとになっているものは、「ホイットルセーの農業区分」です。
教科書でも見かけたことがあると思います。
ホイットルセーは、作物と家畜をどのように育てるかで農業を分類していきました。
ホイットルセーは分類していく中で、砂漠のように全く植物が育たないわけではないけれど、乾燥していて作物を育てることができない地域があることに気づきます。
このような乾燥地域では、畑を作って作物を作るのは難しいため、牧草によって家畜を育てています。
さらに育てた家畜を自分たちの生活に利用するのか、販売するのかで分類できます。
乾燥地域において家畜を自分たちの生活に利用するために育てるのが遊牧です。
それに対して、販売するために家畜を育てているのが企業的牧畜になるのです。
つまり、ホイットルセーの分類では、乾燥地域で行われる家畜の育成について、遊牧と企業的牧畜をペアのように扱っているのです。
では、なぜ「企業的」という言葉が使われているのでしょうか?
その答えは、「企業的牧畜」の成り立ちを考えていくと見えてきます。
家畜の育成は、野菜の栽培よりも複雑なプロセスを踏まなければいけないので、もともと肉は贅沢品でした。
したがって19世紀ごろには、比較的裕福だったヨーロッパ人(特に西欧諸国)が大航海時代に新たに見つけてきた土地である新大陸(南北アメリカ・オーストラリア)の乾燥地域で多く放牧が行われるようになります。
もともと人が住んでいたユーラシア大陸では、すでに土地の所有権が決まっており大規模に放牧をすることは難しい状況だったのですが、新大陸では広大な土地がまだ誰のものにもなっておらず、大規模な放牧ができるポテンシャルがあったのです。
さらに、鉄道の発達や冷凍船の開発によって人口が集中する都市と離れた場所でも牧畜を行い、新鮮なまま消費地に届けることができるようになりました。
乾燥しているため小麦などの作物は育てることはできないけれど、広大な土地があるという状況を生かして、主に新大陸で牧畜が広まっていきました。
また、このような地域での農業は家畜を販売することが目的なので、その土地で放牧するのに最も適している動物に特化していきます。
つまり、決まった種類の家畜を広大な土地を生かして大規模に放牧するのが「企業的牧畜」の本質ということになります。
確かに、企業は特定の家畜を大規模に生産するというイメージと合致すると思いますが、必ずしも企業が行う必要がないということがだんだんとイメージできてきたのではないでしょうか。
企業的牧畜の生産性は?
企業的牧畜について考える際にもう一つ頭に入れておきたいのが、生産性についてです。
序盤にも説明しましたが、遊牧と企業的牧畜は気候などの環境は同じで、家畜を生産する目的が時代によって変化してきたのでした。
放牧とはもともと遊牧民の営みであったため、広大なスペースを必要とすることはすぐに理解できると思います。
したがって、企業的牧畜の土地生産性はあまり高くはありません。
逆に、労働生産性は非常に高いです。
家畜1頭あたりの収益は高く、自然に生えている牧草を利用し手間ひまをかけずに放牧をするため、1人で多くの収益を立てることができるのが特徴なのです。
近年では家畜の管理や農作業にも機械の利用が進んでおり、より労働力をかけずに放牧しようという動きも広がっています。
また、フィードロットと呼ばれる出荷前の肉牛の肉量を増やし、脂の乗った美味しいお肉に仕上げる方法の導入も進んでいます。
⇒⇒(フィードロットに関する記事、執筆中)
企業的牧畜の特徴
- 土地生産性:低い
- 労働生産性:非常に高い
企業的牧畜の分布
企業的牧畜の世界分布を見てみましょう。
- アメリカ(グレートプレーンズ)
- アルゼンチン(湿潤パンパ、乾燥パンパ)
- ブラジル(カンポ、セラード)
- オーストラリア(西部、内陸部)
- 南アフリカ
- トルキスタン(中央アジア)
特にアメリカ、南米、オーストラリアあたりの地域が重要です。
アメリカ(グレートプレーンズ)
アメリカ西部の大部分が企業的牧畜に分類されており、肉牛や羊を大規模に飼育しています。
特に、アメリカは年間降水量との関係が顕著で、500mmの線を境界として企業的牧畜が分布しているのが読み取れるかと思います。
年間降水量が500mm以上になると小麦などの作物を育てることができるので、企業的穀物農業などに変化していきます。
アメリカ西部の中でも、グレートプレーンズのあたりでは周辺で作られるとうもろこしなどの飼料を生かしたフィードロットが行われていることはしっかりと押さえておきましょう。
アルゼンチン(パンパ)・ブラジル(カンポ、セラード)
南米のこの地域は、19世紀末に冷凍船が普及したことにより、北半球への輸出が可能になり発達しました。
アルゼンチンの湿潤パンパでは、主に肉牛とその飼料を組み合わせた形の農業が行われています。
一方で、より乾燥が強い乾燥パンパでは、羊や牛の放牧が盛んになっています。
ブラジルでも大規模な農場で多数の労働者がヨーロッパ向けの肉牛を作るために働いています。
ブラジルは、牛の飼育数が世界一、牛肉の生産量でもアメリカに次いで2位という特徴があります。
また、南米北部のベネズエラでも牧牛が行われています。
オーストラリア(西部、内陸部)
オーストラリアは内部に行けば行くほど降水量が少なくなってきます。
広範囲に企業的牧畜が発展していることがわかると思います。
オーストラリアは農林水産業従事者の1人あたりの農地面積が880haと世界最大なのです。
降水量が少ない地域では、粗放的な牧羊が行われています。
そこから降水量が増えていくにつれ、牧牛、集約的な牧羊と牧畜のやり方が変化していきます。
オーストラリアでは特に牧羊が盛んなのが地図からもわかると思いますが、これには以下のような3つの理由があります。
- イギリスで織物が発達し、羊の毛の需要が高かった
- オーストラリアには羊の病害虫が少なかった
- グレートアーテジアン盆地(大鑽井盆地)がある
特に、オーストラリア大陸の中東部に広がるグレートアーテジアン盆地は地下水が豊富で、年間降水量が500mmに満たない地域でも掘り抜き井戸を利用することで羊の飲み水や牧草を育てることができるという利点があり、乾燥地域でより企業的牧畜が広がる一因となっているので覚えておくと良いです。
また、ニュージーランドでも牧羊が行われています。
南アフリカ
ハイベルトと呼ばれる草原地帯では、羊やダチョウの企業的牧畜が行われています。
生産された羊毛は主にイギリスに輸出されてます。
トルキスタン(中央アジア)
カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンにまたがるトルキスタンと言われる領域でも企業的牧畜は見られます。
カザフステップという単語を耳にしたこともあるのではないでしょうか。
この辺りは、乾燥地域で灌漑によるアラル海の縮小などといった環境問題でも出題される地域ですが、牛や羊といった乾燥した気候でもできる企業的牧畜が行われています。
企業的牧畜の家畜
企業的牧畜で飼育される家畜は主に、肉牛と羊を覚えておきましょう。
より乾燥に強い羊が、厳しい乾燥地域では育てられています。
また、食用の肉の他にも羊毛や皮革といったような材料として商品化される場合もあるので頭に入れておいてください。
- 肉牛
- 羊毛
- 皮革
企業的牧畜のまとめ
どうだったでしょうか?
企業的牧畜がどのように広がっていったのかといった歴史を踏まえると、グッとイメージしやすいものになるの思います。
というわけで、最後に企業的牧畜に関してまとめておきます。
- 特定の家畜を大規模に飼育
- 主に乾燥地域に広がる
分布
- アメリカ(グレートプレーンズ)
- アルゼンチン(湿潤パンパ、乾燥パンパ)
- ブラジル(カンポ、セラード)
- オーストラリア(西部、内陸部)
- 南アフリカ
- トルキスタン(中央アジア)
作物
- 肉牛
- 羊
というわけで、企業的牧畜の特徴をしっかり頭に入れていってください!
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